Le futur (10 years later)


「そんなに無理して笑わなくてもいいんですよ」

暖かいぬくもりと、全てを包み込んでくれるような笑顔の中で、俺は眠りについた。


は、と周りを見渡してみれば誰もいなくて、ただ自分ひとりだけだった。
隼人も、他の守護者もいない、リボーンも。
でもひとりだと思ったとき、自分を呼ぶ、あの温かい声が聞こえたんだ。


「じゅ……いめ!十代目!」
「はや、…と」
逆光で見えた隼人の顔は凄く焦りの色が濃かった。
「よかった…うなされてたから」
隼人は俺の額の汗を拭ってくれた。冷や汗だったんだろうか、隼人の暖かい手が気持ちいい。俺はゆっくりと酸素を得るように深呼吸した。ゆっくり俺の額から頬をすべる隼人の手が妙に心地よくて、俺は目を閉じた。


でも次に空けた瞬間、手の感触も、目の前にあった隼人も、何もかもが消えていた。暖かさも、幸せも。俺は吃驚してベッドから上半身を起こし、周りを見渡す。そこには何も無かった。俺に見えるのは自分がいる綺麗なキングサイズのベッド。それと、ベッドの四隅から伸びる支柱に支えられて出来た天蓋。あとは何も無い。今までいた部屋ではなく、周りは黒く燻って所々煙を上げている廃墟、みたいな感じだ。空は紅く、暗く、地面には花も草も無い。あるのはただ、黒い―――
「うわぁぁっ!!」
ゴトッと何かが崩れるほうを見ると、焼け焦げた人間の顔のようなものがあった。ベッドの下にもよく見ると、何か自分と同じパーツがある物体が見える。そしてこの少しべとつくような空気。間違いない。ここはあの、
「一年前の…」
一年前、焼けて崩れ落ちた不穏分子のアジト跡だ。
敵も、味方も関係なく全てが消えてしまったあの場所。もう二度と、こんなことあってはいけないと後悔し、誓ったあの場所。

全てが消えた場所。

途端に苦しくなってきた。この暗い場所にひとりでいることの恐怖か、それとも。そう思ったとき、目の前が急に眩しくなった。目を開けていられずに俺は目を閉じる。そして、声が―――


「は…や、と」
目を開けるとそこはちゃんと自分の部屋だった。隣には隼人がいて、眠っていた。俺がベッドから上体を起こすと隼人が起きた。俺は振り返って声をかける。
「あ、起こしちゃった?ごめ…隼人?」
隼人はぼーっと俺を見ていた。でもその頬には涙の伝ったあと。俺は隼人を抱き起こして、問いかけた。
「隼人、大丈夫?泣いてたの?」
袖で涙を拭ってやる。隼人は俺のことを悲しいような辛そうな顔で見つめていた。そんな顔して欲しいわけじゃない。君にはいつも笑っていて欲しいのに。そんな顔で見ないでくれ…。
「十代目、言ったでしょう、そんな、無理して笑わないでください、と」
「そんな、」
「そんなこと無いって?そんなはずはない。俺はいつだってあなたの近くで一番あなたを見てるんだ…!無理してないならそんな笑顔じゃない!」
そう言って胸に隼人が飛び込んできた。抱きしめてくれる腕が凄くキツイ。隼人が俺に怒鳴った。そんなの初めてだ。俺自身気づかなかったんだ、俺がそんな顔してたなんて。でも考えてみれば出来るわけないよな、あんな夢見るような、あんなに酒飲むような精神状態で。いつもの笑顔なはずが無い。
「…うん、…ごめん」
「あ、やまったって、こんか、いは許しません」
「…うん」
「あなたが、泣けない、なら、おれ、が」
「…ありがとう」
途切れ途切れにお説教する隼人を抱きしめた俺の目から一滴、こぼれた気がした。隼人が顔を上げて俺の目尻にひとつキスしたから。そのとき笑った君の笑顔が、一番、輝いて見えた。あの暗い世界でも俺は君がいるから、ひとりじゃないってわかったんだ。大丈夫、まだ


明日の朝に会えるよ。






は、と周りを見渡してみれば誰もいなくて、ただ自分ひとりだけだった。

その時思ったんだ。これは一人であって独りじゃないって。

感じたんだ。孤独じゃなくて、もっと違う悲しさ、を。

だってひとりだと思ったとき、自分を呼ぶ、あの温かい声が聞こえたんだ。









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これで一応3つの続き物完結です。やっぱり3つ書くと、1とか2はいい感じに行くけど3はもうあんまり…(笑)でも結果として上手くいった感じです。
しかし!我が家の2759はここから始まります(笑)