13話

ボンゴレの屋敷は山奥、というわけではないが、そこそこ緑溢れるちょっと高い丘みたいなところにあったりする。そんなわけで屋敷の庭も緑豊かだ。ボスが日本から取り寄せた(嫁入り道具といわれている)桜の木を中心に同じ高さに切られた芝生が広がる。いたるところに木陰が見えるのはぽつぽつと、それでいて何らかの規則に沿って植えられている木々のおかげだ。ボスの部屋からはこんな感じの風景が広がっているが、他の窓から見れば噴水やら池やらもあったりする。
そんなボンゴレの庭が大のお気に入りという守護者がいた。彼はいつもいつでもそこに居るわけではないのだが、ボンゴレにいるときは決まってその場所に居る。そこから何が見えるのか、そこに居ると何がいいのか、それは彼しか知らないが、隼人は彼を見つけてしまったのだ。


「クフフ…誰に泣かされたんですか?」
「!」


屋敷から飛び出してきてなんとなく庭に逃げてきた隼人は、突然聞き覚えのある笑い方が聞こえて立ち止まった。あたりを見渡しても木陰ばかりで目当ての人物は居ない。と、すれば


「上ですよ」
「…骸……」


木の上にはいつもの暑そうな長いコートを着た骸がいた。骸はそのまま木の上から話しかけてきた。隼人は思い出したように服の袖で目を擦ってからもう一度見上げた。
「…何の用だ」
「君があんまりいそいで来るものだからどうしたんだろうと思いまして」
「お前には関係ない」
「そうですか。それで、誰に泣かされたんですか?」
「………」


このままやつのペースに乗ってしまうのは危険だ、と本能が告げていた。だが隼人にはただ黙ることしか出来なかった。誰に泣かされたのかと聞かれて、十代目の顔が浮かんだ途端にまた思考が途切れてしまったから。


「クフフ…まぁ知っているんですけどね。ボンゴレでしょう」
「なっ…!」
「別に心を読んだわけじゃありませんよ。ここから見えるんですよね」


ボンゴレの部屋が、と言った骸の視線の先には確かに十代目の居る部屋のバルコニーが見えた。隼人の位置からでは見えなくとも骸の位置からならば見ることも可能だろう。ということは、さっきのことを一部始終見られていたのだろう。


「何を話していたのかまでは聞こえませんでしたけど」


そこまで言うと骸は木の上から降りてきた。隼人の目の前に近づく。骸は霧の守護者であるけれど、別に昔となんら変わらない。雲雀と同じようにボンゴレに群れず、好き勝手やっている。ただ、2人とも最近は暇なのかボンゴレの手伝いをこなしているみたいだけれども。今幻術でもかけられても隼人はそれに対抗できるような精神力を持ち合わせていなかった。なので精一杯緊張するしかなかった。逆効果なのだけれど。


「僕の推測では、ボンゴレは何か隠していると思いますよ。君に」
「…俺に」


いままでそれを疑ったことはあったが自分の憶測でしかなかった。ここにきて骸がそんなことを言うということで憶測がだんだん真実味を増してきていた。


「そう。君に、です。特に証拠はありませんけどね。色々思い当たる節は僕より君のほうがあるんじゃないですか?」
それは例えば今回の婚約者騒ぎのことでいいんだろうか?でもこの言い様は、遠まわしにではあるが骸が話の確信に触れさせようとしているんじゃないだろうか。それは真実を知っていなければ出来ないはずだ。


「…お前、何か知ってんじゃねぇのか?」
「クフフ…どうでしょうね?」
「てめ…っ」


「僕を尋問するより彼に聞いたほうが早いと思いますよ」
「あっ待ちやがれ!骸!!」
「次に会うときは、めそめそしないでくださいね」
「めそめそなんてしてねー!!!」


ぜいぜいと息を切らせながら隼人はもう見えない骸が居た場所を見つめ、ある一つのことを考えていた。それはこの事の核心であり、入口でもあった。十代目が何かを隠している。しかも隼人にだけ。それを解かない限りこの悲しみからは逃れられそうになかった。
愛しいあの人に辿りつくためにも









「…すこし喋りすぎましたね」
「骸様?」
「何でもありませんよ」