続き

昼間は上手くやれただろうか。上手く笑えていただろうか。
夜になって私室に戻った俺は、緊張で縮こまっていた心臓が一気に動く振動に思わず胸を押さえた。
正直、十代目が彼女に触れているのを見たときは、今朝の決心が揺るぎそうになった。自分がされたことのひとつひとつが彼女に移っていくのを見ていると、自分から何もかもが消えていく感覚に陥る。そして、どす黒いものが支配していく。彼女や十代目を憎めたらどんなに楽だろう。それが出来ないのは、彼女が俺に対して憧れの眼差しを向けるときがあるから。十代目のことは


「(きっとこれが恋は盲目ってヤツだ…)」


憎もうと思っても、なぜ?という疑問が出てしまう。なぜあの人を憎まなければならないのか。きっと何かあるんだと、俺の知っている十代目を並べ立てて、そしてやっぱり十代目のせいじゃないという結論になってしまう。彼の悪い所が浮かばないのだ。だからこれは、恋は盲目というやつなんだと理解する。


「……じゅう、だいめ…」


ベッドに横たわった俺の目の前にはただ天井が広がるばかり。この天井、こんなに広かっただろうか。こんなに遠かっただろうか。
ああ、そうか、いつも十代目の肩越しに見ていたから、なにもかもが違って見えるんだ。
ベッドも広く感じるし、この部屋も自分の部屋じゃないみたいだ。


彼の存在は自分の中でこんなにも大きなものだったのだろうか。こんなにも自分は女々しいヤツだっただろうか。こんなにも自分はこの関係や環境に、溺れていたんだろうか。そう思い知った瞬間だった。


だからこの夜も
こんなにも寂しく感じるんだろう


ただ貴方がいないだけで