続き

青々とした芝生と木々に、色とりどりの鮮やかな花。気候はとても穏やかで日本の春のように暖かい。
そんな日には隼人とテラスで日向ぼっこでもしていたいと俺は思うけれど、現実にはそうもいかない。今日も俺の婚約者である彼女が来ているのだから。彼女が来る日の夜は決まっていつもサービス残業だ。昼間は彼女の相手をしなければいけないから。彼女を一人で(勿論ボディーガードやら何やらがついているけれど)放っておいてはいけないし、結局俺は3時のおやつを彼女と過ごしてしまうのだ。だから書類が溜まる。
それは、彼女の家がボンゴレ有権者だからだ。だから、彼女のご機嫌を損ねたりなんかしたら彼のお父様やおじい様やらがやってきて、ボンゴレは財政の危機に陥ってしまう。それを防ぐために俺は愛想良くしていなくちゃいけないんだ。
リボーンなんか彼女が来ると上機嫌だ。愛人の一人にでもしたらどうだ、とか簡単に言ってくる。俺には複数の人を愛するなんて…


「綱吉さん?」
「―――ああ、すみません。」
昨夜のことが気になってしまって俺はぼーっとしていたようだ。結局あの晩に執務室は殺風景な部屋になってしまったから、朝リボーンになんだこれはって怒られたことを思い出した。手当たり次第消しまくったからなぁ。
「大丈夫ですか?お疲れでしたら…」
「いえ、ただ…」
「ただ?」


「貴方の髪に見惚れていたんです」
本当は、隼人の事が気になってしまっていたんです。


そう言って風に踊らされる彼女のカスタードクリームみたいな色の髪を、耳に掛けてやってにこりと微笑む。すると彼女はたちまち白い頬をピンク色に染めた。リボーンに習ったことがこんな時に役に立つなんて。リボーン様様かな。
そういえば隼人も耳触られると弱いんだよな。やっぱり耳って性感帯なんだな。隼人なんて耳元で囁けば俺にぎゅっとしがみついてくるんだもんなぁ。


今頃、泣いてるのかな…




「失礼します」
「は…」
急に隼人が現れて吃驚した。彼の目じりは少し赤くなっていた。きっと泣いて、擦ったんだろうな…。俺はなんて酷いことを言ってしまったんだろう。こんなの、結局自分のためでしかないじゃないか。いきなり隼人が現れたことで俺はいままで装ってきた顔が崩れていきそうになった。


「十代目、会議の時間ですので」
「あ…、わかった、いま行くよ」
俺が顔を上げると隼人はいつもの、俺にしか見せないあの笑顔を見せてくれた。少し腫れた瞼が痛々しいのに、なんだかとても嬉しかった。そして、悲しかった。
俺は彼女にすみません、と告げると席を立って隼人と屋敷にむかって歩き出した。
「隼人…」
「どうしました?十代目」
「………いや、なんでもないよ」
俺が呟いた言葉にさえ、耳を傾けてくれて、あんなに酷いことを言ったのに、少し微笑んでくれる隼人に俺は何もしてやれない…。彼女や彼女の付き人がいる場所では、この屋敷の中でさえ、君には何も返せないし、あげられない。




もし君に差し出せるものがあるとしたら、変わらぬ確かな想いなのに
今はそれさえも渡せない








                  • -

これで9話目くらいなので、ちょいちょい真実を小出しにしていきます。ま、でも今回出した答えなんて皆さん気づいてるような定番の言い訳ですけれども…。今回の理由だと、なんでそこまでしなくちゃいけないの?!って感じなんですが、本当はこんな理由、一端でしかないんです。