A domani R27(about 5 years later)(080402Arrivederciの続き)

あの後、就任式は滞りなく行われた。特に事件や事故があるわけでもなく順調に。そう、順調すぎるほどに。こうなるように仕向けたのは自分なのに、いざ上手く事が進むと面白くない、と思ってしまう。壇上に上る白いスーツの彼は見た目以上に成長しているのだ。それを面白くないと思うなんて、矛盾している。桜の花びらまで俺を嘲笑っているようだ。
警備として、家庭教師の最後の務めとして式に臨んだ俺だが、思いの外それは俺にとってストレス以外の何者でもなかったようだ。守護者やファミリーの連中に祝福の言葉を浴びせられているツナを尻目にとっとと部屋に帰ってきた。部屋といっても自分の家ではなくボンゴレの屋敷に設けられた客間の一つだ。だからなのか居心地が悪く感じる。愛用の帽子すら机に投げすて、俺は大きなため息をついてベッドにダイブした。


*****


―――次の朝
どうやら俺は柄にもなく熟睡していたようで、いつもより少し遅めに目が覚めた。まぁどうせ今日から昨日まではあった、家庭教師という仕事が終わってしまったんだ。何時に起きようが関係ない。今日からまた、ただのフリーのヒットマンになるだけだ。そう思って俺はとりあえず朝食を部屋に持ってくるようにメイドに言ってからシャワーを浴びに行った。
部屋に戻ると、丁度いいタイミングで朝食が運ばれていた。着替えながらそれを食べて、食後のコーヒーに手を伸ばそうとした。
コンコン
軽いノック音がして、若い男の声がした。
「獄寺です、リボーンさん」
「ああ、入れ」
「失礼します」
おはよう御座います、と昨日付けで名実共に嵐の守護者になった獄寺が俺に近づいてきた。なんだ、結局俺だけが役名を剥奪されてなにも得てないのか。これからこいつは一生ツナの右腕として生きていくんだろうな、そう思うといい気分じゃねぇな。
「ああ。で、何の用だ?」
「はい、十代目がリボーンさんに朝食が終わったら来て欲しいと」
ツナが?今更なんだって言うんだ。お前も昨日言ったじゃないか。さようならって。
「…わかった。後で行くから、下がっていい」
「はい、失礼します」
俺はその納得のいかない呼び出しにとりあえず返事をしてコーヒーのカップを手に取った。獄寺が出て行くのもかまわずに。ただその漆黒を見つめて
「(さよなら、なんだろ?)」
また彼に会えるという淡い期待、同時に彼を取り巻くものを見つめるたびに感じる孤独感。昨日、ぽっかりと空いてしまった心の隙間は彼じゃなきゃ埋まらないと本能が告げているというのに。もうそれを望むことは許されないんだろう。


*****


コンコン
「はいは〜い」
どうぞ、とノックしてすぐにツナが扉を開けた。待っていたんだろうか?それよりも
「俺じゃなかったらどうする気だ」
「リボーンだって、わかってたから」
そんな一言でも、まだ彼の中に自分が存在してるんだと感じられて嬉しいのに、それでも隙間は埋まらない。空いた空洞を少しでも狭めるどころか、すり抜けてしまう。
「とりあえずそこに座ってよ」
そこ、とソファに促されたのでその通りにした。ツナは座らずに立ったまま話し始めた。
「リボーンってこの後、どうするの?」
「どうって…フリーのヒットマンに戻るだけだ」
「それって忙しいの?」
「…昨日までは依頼を受けたりしてなかったからな、これから依頼が入れば忙しくなるかもな」
そうしてまた最強と謳われるアルコバレーノの一人として生きていくだけだ。アルコバレーノは一人じゃないのに、いつでも孤独を感じながら。
ツナはそっかー、と何か考えながら大きな窓に近づいていった。昨日、さよならを交わしたときにツナがいた場所に彼はもう一度立った。そして思いついたように突然あ!とこちらを向いたから俺は驚いてしまった。
「じゃぁさ、俺が依頼してもいいんだよね?」
「…まぁ、そうだな」
確かに間違っちゃいないし、ボンゴレはもともと俺のお得意様だ。今日からまた9代目に呼ばれるかと思ってたくらいだったから。しかしツナが依頼って、意味わかってるのか?俺は、殺し屋なんだぞ。これからお前が作る世界には門前払いなはずだ。それに、昨日、さよならって。
「それなら、リボーン。ボンゴレに雇われてくれる?」
「おまえ、意味わかってんのか?俺は…」
ヒットマンとして、じゃなくてリボーンとして、だ」
「は?」
「ま、最初からそのつもりだったんだけどさ。なかなか言い出せなくて」
春の強風に煽られてるみたいだ。どこまで俺をかき乱せば気が済むんだ。先が読めないなんて。冷静になれ。取り乱してるのは俺だけだ。ツナは血に塗られたボンゴレの歴史をぶっ壊してやるっていったんだ、だったら俺はいらない。
「今日から、お前はあそこな」
そういって指差された先にあるのは、ボスの執務机の左側に少し離れて配置された同じくらいの大きさの机。この部屋唯一のバルコニーにつながる大きな窓のちょうど前に配置されていた。俺があっけに取られているのもお構いなしにツナは説明を続ける。
「やっぱりまだ少し不安だし、9代目もリボーンを補佐につけてもいいって言ってくれたし」
「だからリボーン、フリーのヒットマンに戻るのはもうちょっと待ってよ」
俺は昨日、あそこでこいつと別れを交わして
もう俺の生徒じゃないんだ、と何度も言い聞かせて
さよならの意味をやっと理解出来るところだったのに
「俺は高いぞ」


いつか帰るところを知ってしまった
彼の傍にいることを心地よいと気づいてしまった
俺の負けだ








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ストックのリボツナはリボーンの片思いみたいなのが多いので、いつか幸せにしてあげたかった。リボツナリボでもおいしくいただける、私。それを1分前に知った、私。続き物は、Endingよりもその過程が好きだし、気合が入ります。