続き(59sideに戻ります)

激しく打ち付ける重厚な木と重い金属の音。それは寝静まった廊下だけではなく、俺の心にも響いた。本当かどうか未だに信じられないが、うんともすんとも言わないボスの執務室のドアを見る限り、これ以上何も無いのだろう。否定なんて。俺のことが嫌いだなんて、そんなの今までに言われたことは一度も無かった。十代目はいつだって俺のことを好きだ、と言ってくれた。愛してる、と言ってくれた。それがたった一言で否定された。俺を支えてきたもの全てが崩れていくような感じがしたけれど、不思議とそこで涙は出なかった。人間の涙というものは肝心なところで感情には左右されないんだろうか。
俺は生気の抜けたようなフラフラとした足取りで自分の部屋に戻った。誰にも出会わなくて良かった。今、口を開いたら何が出るかわからない。心はずいぶん前から叫びっぱなしだ。それでも何もいえないのは、ショックからかそれともこうなることを予想していたんだろうか。
いや、そんなのあり得ない。だってそんな事したら十代目を疑ってしまうことになってしまう。俺はただ、信じていればいいんだ。あの人がそう簡単に俺を捨てるはずなんてないんだ。
でもここ数日のあの人の隣には自分じゃなくて誰が居た?
あの人は誰に笑いかけてた?


ぱたん、と軽いドアの閉まる音を合図に、俺の頬に溜めていた思いが零れ落ちてきた。
暖かい涙が、十代目のぬくもりの様な気がした。
これが全部溶け出してしまったら、俺の体は何の意味を持つんだろうか。


何もかも消えてしまったら、貴方のことを信じることすら出来なくなってしまうかもしれない。
何もかも奪わないでください。
俺には貴方しか居ないんです。